

Azureが提供する様々なクラウドサービスは、Microsoftが管理するデータセンター内のサーバーに配備されているため、利用者側は故障や停電など物理的な障害を気にすることなく日々運用できています。Azure側では障害によるサービス停止を防ぐために、データセンターの物理的な配置を地域や建物で分離し、他のデータセンターで代替できるような仕組みや態勢を採っています。
このようなデータセンターの分散配置は、Azureではリージョンや可用性ゾーンと呼ばれ、Azureサービスを使って安定的なシステムを構築する上で重要な概念です。この記事では、リージョンや可用性ゾーンがAzureサービスにどのように関係しているかを解説していきます。
目次 <Contents>
Azureのリージョンとは

Azureのリージョンとは、Azureでインフラ障害が起こっても安定稼働できるように、ハードウェア設備を地理的に分散させた仕組みのことです。
Azureが提供するサービスは、Microsoftが管理するデータセンター内に配備されており、冗長化されたサーバー機器や安定したネットワーク設備などの信頼性の高いインフラ施設の下で実現されています。それだけでなく、サーバーセンター全体や周辺地域一帯に及ぶ障害や災害が発生することも考慮して、データセンターを世界中に分散配置させ、それらの間で緊密な連携を取ることで止まらないサービスを目指しています。
これらのデータセンターはリージョンと呼ばれる地域に集約して建てられています。Azureのリージョンは世界中の国や地域をまたいで分類されており、2025年5月時点では60ヵ所を超える規模になっています。
Azureのリージョン例
- 米国中南部、米国西部、米国中部、米国東部、米国中西部、米国中北部
- オーストラリア中部、オーストラリア東部、オーストラリア南東部
- 東日本、西日本
- 北ヨーロッパ、西ヨーロッパ
Azureのサービスは基本的に、利用者が選んだ1つのリージョンに配備されます。利用者の居住地に関わらずリージョンを選べるため、日本国内から東日本リージョンと米国東部リージョンの2ヵ所に分散して配備することも可能です。もし日本で障害が発生しても、米国で継続運用するような二重の態勢が採れます。
このように、Azureの利用者は世界中のリージョンを使って、システム障害のリスク軽減を図れます。
Azureの可用性ゾーンとは
Azureのインフラは、同一リージョンの中でさらにデータセンターが地理的に分散されています。この分散された配置は可用性ゾーンと呼ばれ、同一リージョン内でデータを同期できたり、システムを二重化できたりする仕組みが採られています。
リージョンに比べてデータセンター間の距離が近いため、大規模な災害では同時に影響を受けやすいですが、データセンター内の局所的な障害に対しては効果を発揮します。また、物理的な距離が近いことで通信速度を上げやすく、リージョン間の連携に比べてパフォーマンスは高いです。
Azureのサービスは基本的には1ヵ所の可用性ゾーンに配備されますが、サービスの種類やプランによっては複数の可用性ゾーンに配備できる機能を備えています。可用性ゾーン間で自動的にデータを同期したり、自動的に代替システムに切り替えたりできます。
厳密なパフォーマンスが求められる場合には、リージョンよりも可用性ゾーンでの冗長化のほうが向いているといえます。システム要件やコストを考慮して選ぶ必要があります。
※可用性セットとの違い
Azureの可用性セットと可用性ゾーンは似た言葉ですが内容が異なります。可用性セットは、リージョン内に作成されたリソースを論理的に冗長化させる仕組みで、可用性ゾーンが存在しないリージョンで効果があります。仮想マシンサービスであるAzure Virtual Machinesで利用できる機能です。
Azureのリージョンの選び方
Azureのサービスをどのリージョンに配備するかは、作成するサービスごとに選択できますが、後から自由に切り替えられないため、事前に決めておきましょう。
リージョンを選ぶときは、パフォーマンスの点から見るとサービス提供先に近い国や地域が望ましいです。データセンターと物理的な距離が近いほどネットワークの遅延が少ないため、サービス利用者のアクセス待ち時間を短くできます。世界各地に展開するサービスであれば、提供先から近郊のリージョンを用意しておくとパフォーマンス効率が向上します。ただし、特定のリージョンでしかサポートされていないAzureサービスやプランもあるため注意が必要です。
また、データベースやストレージのAzureサービスを扱う場合は、可用性ゾーンを持つリージョンや自動連携先を持つリージョンを検討してみましょう。この場合、決められた複製先が自動的に割り当てられるため、利用者側で別のリージョンで新しく作成したり、データ同期の仕組みを用意したりする必要がなく簡単にデータの冗長化が可能です。例えば、日本国内では東日本と西日本のリージョンがお互いの自動連携先になっています。
一方で、冗長化の仕組みが自動では提供されないリージョンもありますが、その場合は冗長化の構成を検討しましょう。障害に備えて代替のリージョンを用意しておくと、サービス停止のリスクを低減できます。例えば、同じ仕組みを海外のリージョンに配備しておくと、障害が起こったときにそのリージョンの仕組みに素早く切り替えられます。ただし、複数リージョンを常に稼働させているとコストが増加するため、平時には停止させておくとコストを抑えられます。
このように、Azureサービスの種類やプランによって冗長化の仕組みが異なるので、利用するサービスの仕様を個別に確認しておく必要があります。また、冗長性を高める機能や構成では利用料金もおのずと増えていきますので、ビジネス要件と照らし合わせてバランスを取るとよいでしょう。
複数リージョン構成を採用するメリット
システム構築において複数リージョンを取り入れると、システム停止やデータ損失の防止につながる次のようなメリットがあります。
システムの稼働率向上
システムの稼働率は停止させることなく継続運用ができることを示す指標で、休みなく稼働し続ければならないようなビジネス要件で重視されます。特に高い稼働率が求められる場合には、システムを二重化して障害に備える方法が採られています。
Azureでは、別のリージョンに同じ仕組みやその一部分を予めコピーしておくことでシステムの二重化が実現できます。これらを並列に稼働させておけば、片方のリージョンで障害が起こってもすぐに切り替えることが可能です。Azure Front DoorやAzure Load Balancerなどリージョンを越えた処理分散が可能なサービスを利用すれば簡単に切り替えできます。
また、アクセスが集中したときの負荷分散の効果もあり、想定以上の負荷によるシステム停止の予防にもつながります。
データの冗長化
データの保管先が1つのリージョンに依存していると、リージョン障害によってシステムが停止する可能性があります。そのため、複数リージョンにデータを同期させておくと、より信頼性の高いシステムを実現できます。
データを扱うAzureサービスの中には、自動的にデータを同期する仕組みがあります。例えば、クラウドストレージサービスのAzure Storageでは、リージョンや可用性ゾーンを利用してデータを自動的に複製する既製の仕組みが備わっています。
- 1つのリージョン内での複製
- ローカル冗長ストレージ:1つの可用性ゾーン内で複製
- ゾーン冗長ストレージ:3つの可用性ゾーン間で複製
- 2つのリージョン間での複製
- Geo冗長ストレージ:各リージョンのローカル冗長ストレージの間で複製
- Geoゾーン冗長ストレージ:リージョンの一方にゾーン冗長ストレージ、もう片方にローカル冗長ストレージを作成して複製
Geo冗長は作成したリソースを別のリージョンに複製する仕組みで、ストレージの他に、データベース、設定情報、シークレット情報、コンテナイメージなどを扱う他のAzureサービスにも備わっています。
また、常に同期を取る必要がない場合は、定期的に別リージョンにバックアップデータを取る方法もあります。リージョン障害が起こってもバックアップデータからの復旧が可能で、さらにリージョン間のデータ同期の頻度が減ることでパフォーマンスが向上するメリットもあります。
障害からの迅速な復旧
先述したように、別リージョンで並列で同じ仕組みを稼働させることで、片方に障害が起こっても切れ目なく運用し続けられますが、その反面コストも膨らみます。そのため、システム停止によって直ちに業務に支障をきたさないのであれば、ある程度のメンテナンス時間を許容する方策が採られることがあります。別リージョンに切り替える時間を短くできれば、運用に大きな影響を与えずに済みます。
特にコストの最適化を図るならば、構築した予備の仕組みを稼働させずに待機させておくのも有効な手段です。別リージョンにリソースの準備や設定作業を事前に済ませておくだけでも、移行までの時間を短縮できます。Azureサービスの中には、停止中は利用料金が下がったり、そもそも発生しなかったりするタイプの料金体系もあり、待機させておく仕組みに適しています。
複数リージョン構成を採用するときの注意点
複数リージョン構成はシステムの信頼性を高める反面、仕組みが複雑化しやすいです。下記の表のように、他の構成と比較すると一長一短があるため、ビジネス要件に合わせて選ぶとよいでしょう。
比較対象 | 単一リージョン | 複数の 可用性ゾーン | 複数リージョン (非同期複製) | 複数リージョン (同期複製) |
---|---|---|---|---|
リージョン数 | 1 | 1 | 複数 | 複数 |
複製タイミング | なし | 同期 | 非同期 | 同期 |
信頼性 | 低い | 高い | 高い | 非常に高い |
パフォーマンス への影響 | 少ない | やや少ない | 少ない | 大きい |
利用料金 | 低 | 中 | 高 | 高 |
運用の手間 | 少ない | 少ない | 多い | 多い |
以降では、複数リージョン構成による影響を解説していきます。
システムの複雑化
複数リージョンに仕組みを分散させるとシステムの信頼性は向上しますが、構成が複雑化していきます。それに伴い、アプリケーション配備先、ログ収集や監視の対象、設定事項、マニュアルや手順書など管理対象も増えていきます。また、機能拡張や規模拡大を考えるときも現構成に影響が出ないか配慮しなければなりません。
そのため、リージョン冗長化の必要性については慎重に検討する必要があります。例えば、すでにリージョン間で冗長化されているAzureサービスやプランに切り替えると、利用者側の負担の少ないシンプルな構成が可能です。また、開発や運用を自動化する仕組みを取り入れることで負担を減らすことができます。
運用コストの増加
Azureサービスのリソース数や利用時間が増えるほど運用コストは増大していくため、ビジネス要件に合わせた構成のバランスを見極めなければなりません。さらに、冗長化によって普段は使われないリソースが増えることで費用対効果も低下していきます。
また、Azureサービスによる自動的な復旧やデータ冗長化の仕組みに頼らず、自前の仕組みで利用料金を抑えたとしても、代わりにシステムの複雑さや運用業務の負担は増えていきます。
システムの信頼性と運用コストはトレードオフの関係にあるため、予算内で実現するには上限があります。まずはビジネス要件を満たすことを目指しながら、なるべくシンプルな構成を保つことが望ましいです。
パフォーマンスへの影響
別のリソースにデータの同期を取るときは、常に同期先への書き込み処理が発生するためパフォーマンスが低下します。このとき、同期先との物理的な距離やネットワークが離れているほどパフォーマンス低下しやすく、可用性ゾーン間よりもリージョン間、国内よりも国外のリージョンのほうが顕著に現れます。システム全体のパフォーマンスを重視する場合には特に配慮が必要です。
場合によっては、可用性リージョン間の同期に切り替えたり、リージョン間で非同期にバックアップしたりなどの対策も考えられます。
Azureの複数リージョンの活用例
この章では複数リージョンを利用してAzureサービスを活用した例を紹介していきます。
信頼性を高めるデータ分散化

データベースのAzure Cosmos DBでは、データ書き込み先を任意の複数リージョンに増やせます。上図では、データの書き込み要求があったときには3つのリージョンに書き込まれます。データは各リージョン間で一貫性が保たれるため、一部のリージョンで障害が発生しても代替することで継続した運用が可能です。同時に負荷分散の効果もあるため、アクセス頻度の高いサービスや国外利用者の多いサービスに有効です。
可用性の高いアプリケーション構成

Azure App ServiceのようなWebアプリケーションを構築するサービスでは、基本的に1つのリージョンに配備されますが、複数リージョンに配備して並列にすることでシステム全体の可用性を高められます。
上図では、Webアプリケーションを並列で動かすために、Azure Front Doorを前段に配置し、アクセスを各リージョンに振り分けます。片方のWebアプリケーションは、平時には待機させておき、障害によりアクセス不能になったときに起動させて代わりに処理を受け付けます。常に両方を起動させておくと、障害時の対応がスムーズになったり、平時の負荷分散になったりします。
まとめ
Azureのリージョンや可用性ゾーンは、物理的な障害に備えるために地理的に分散化したインフラであり、システム全体の可用性を高める重要な要素です。停止させてはならない重要なシステムには、複数のリージョンや可用性ゾーンにAzureのリソースを分散して配備することが有効で、Azureサービスに既に備わっている冗長化の仕組みを活用して構成しましょう。